EPAおよびDHAの世界市場：産業チェーン、構造分析、ビジネスモデルの展望（2026-2032）

EPA（エイコサペンタエン酸）および DHA（ドコサヘキサエン酸）は、長鎖オメガ 3 多価不飽和脂肪酸（O-3 類）であり、魚介類、一部の藻類および遺伝子組み換え植物に豊富に含まれている。人体は生涯のあらゆる段階で最適な発達と機能を発揮するため、EPA および DHA オメガ 3 脂肪酸を必要とする。

魚油は、脂身の多い魚から抽出される油である。エイコサペンタエン酸（EPA）、ドコサヘキサエン酸（DHA）および各種 N-3 多価不飽和脂肪酸（N-3PUFA）を豊富に含み、人体に必須の不飽和脂肪酸である。EPA は血管内の老廃物を除去し、血管を柔らかくし、免疫機能を向上させるため「血管スカベンジャー」と呼ばれている。DHA は主に妊婦や乳幼児に使用され、摂取することで脳の正常な成長発達を促進し、いわゆる脳機能強化・知能向上の効果を発揮するため、一般的に「ブレインゴールド」と称されている。

藻油は微細藻類から抽出される植物性油であり、オメガ 3 脂肪酸、特に DHA（ドコサヘキサエン酸）および EPA（エイコサペンタエン酸）を高含有することで広く認知されている。魚油とは異なり、藻油は持続可能でヴィーガンに対応したオメガ 3 脂肪酸源であり、健康志向かつ環境意識の高い消費者にとって理想的な選択肢となっている。特定の藻類菌株を制御された環境下で発酵させて製造され、純度と均一性が保証されている。藻油は強化食品・飲料、栄養補助食品、機能性食品、医薬品に広く使用されている。無臭で魚臭みがなく、海洋汚染物質のリスクが低いことから、消費者市場と産業市場の両方で人気を高めている。

藻油パウダーは藻類由来の油をマイクロカプセル化した製品であり、主に DHA や EPA といったオメガ 3 脂肪酸を豊富に含んでいる。特定の微細藻類（例：シゾキトリウム属）を制御された条件下で発酵させる工程から始まる多段階のプロセスを経て製造される。藻体を収穫した後、超臨界 CO₂抽出法や溶媒抽出法などの手法で油を抽出する。油をパウダー化するため、アラビアガム、マルトデキストリン、化工でんぷんなどの担体材料と乳化させて安定なエマルジョンを形成する。このエマルジョンを噴霧乾燥などの方法で乾燥させ、油を内包した流動性の良いパウダーを得る。藻油パウダーは液体油に比べ安定性が高く、取り扱いが容易であり、栄養補助食品、強化食品・飲料、機能性食品といった固形または粉末状の食品配合に最適である。無味で保存期間が長いことから、オメガ 3 脂肪酸強化の代替品として普及が進んでいる。

以上から、藻油パウダーは藻油から誘導されることがわかる。顧客ごとの純度要求が異なるため、パウダーの重量を正確に油相当量に換算することは非常に困難であり、製造業者は通常このデータを追跡していない。したがって、本レポートにおける藻油の販売量および売上高の数値は、藻油本体とそれから製造される藻油パウダーの合計を示している。

EPAおよびDHA産業の発展には、三つの明確な潮流が存在する。第一に、「医療・栄養融合型市場」への転換である。従来のサプリメント市場に加え、慢性疾患対策や臨床栄養領域での需要が急速に拡大している。第二に、「サステナビリティ志向」の台頭である。従来の魚油依存モデルから、藻類培養や再生可能資源を利用した供給体系への移行が進行中である。第三に、「高純度化・高付加価値化」への技術競争が激化している。精製技術、マイクロカプセル化、酸化安定性改善など、各社が独自の技術革新に注力している。これにより、EPAおよびDHAは単なる栄養素から、医薬・食品の境界を超える「戦略的バイオ成分」として位置づけられつつある。今後、規制緩和や品質基準の統一が進むことで、グローバル市場全体の信頼性と透明性が一層高まることが期待される。

YH Researchによる最新調査「グローバルEPAおよびDHAのトップ会社の市場シェアおよびランキング 2025」によれば、2025年から2031年の予測期間中、世界のEPAおよびDHA市場は年平均成長率（CAGR）5.7%で拡大し、2031年までに市場規模は3100百万米ドルに達する見込みである。この成長を牽引するのは、北米と欧州の成熟市場に加え、アジア太平洋地域の新興市場である。特に中国、インド、日本、韓国では、健康食品および機能性飲料へのEPA・DHA添加が急増している。また、製薬用途では心血管疾患治療薬や臨床栄養製品への採用が広がり、産業全体の高付加価値化が進展している。市場成長の根底には、生活習慣病の増加、医療費抑制ニーズ、消費者の健康意識の高度化という三大構造要因がある。これらの要素が複合的に作用し、今後10年間、EPAおよびDHA市場は「安定成長から戦略的拡張期」へと移行していくとみられる。

本市場の競争構造は、グローバルトップ企業が高シェアを維持する寡占的傾向にある。YH Researchのデータによれば、2024年時点でDSM-Firmenich、KD Pharma、Croda、BASF、Yuwang Pharma、Corbion、Pelagia（EPAX）、GC Rieber VivoMega、Golden Omega、TASAなど主要10社が全世界売上の約58.0%を占めている。これらの企業は原料調達から精製、製剤化、最終製品供給までを垂直統合しており、品質保証と供給安定性に強みを持つ。欧州勢のDSM-Firmenich、BASF、Crodaは技術力とブランド力で市場をリードする一方、中国や南米企業はコスト競争力と原料調達の柔軟性で存在感を高めている。また、近年は医薬・食品・化粧品の境界が曖昧化し、OEM・ODMを通じた企業間連携が増加している。技術提携やESG投資の動きも活発であり、企業の競争優位は「科学的根拠とサステナビリティの融合」によって左右されつつある。

EPAおよびDHA市場は、今後10年間で「量から質への転換期」を迎えるであろう。製品差別化の鍵となるのは、純度・吸収効率・持続安定性といった技術指標に加え、環境・社会・ガバナンス（ESG）を重視した事業モデルの確立である。藻類由来EPA・DHAの商業化が進むことで、原料供給の持続性と海洋保全の両立が可能になり、企業価値の新たな評価軸が形成される。さらに、AIとデジタルサプライチェーン管理の導入により、需要予測精度とトレーサビリティの強化が期待される。消費者の嗜好が「機能性＋エシカル消費」へとシフトする中で、EPAおよびDHAは単なる健康素材ではなく、「未来のヘルスケア経済を牽引する戦略資源」としての地位を確立することになるだろう。本市場は、科学・環境・ビジネスの交差点で次の成長物語を描き始めている。

本記事は、YH Researchが発行したレポート「グローバルEPAおよびDHAのトップ会社の市場シェアおよびランキング 2025」 を紹介しています。

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