劇団天文座第40回公演「終着のポータラカ」
あらすじ
15年前、巨大な台風が漁師町・汐尽町を襲った。町は壊滅し、多くの命が失われた。その中で、町長・南波渉の妻・靜歌は、息子の晶を守るため、自らが波に流されることを選んだ。
それから15年。町は静かに衰退していた。かつての友人たちは次々と町を離れていく。だが、廃線駅には奇妙な噂が広がっていた――「汽車に乗れば、ポータラカ(理想郷)に行ける。ただし切符の代償は、自分の夢」
晶は、その噂の汽車に乗ることを決める。母を求めて。
見どころ
「夢と人生」を問い直す冒険ファンタジー
この作品は、死と再生、夢と現実の境界を舞台に、少年たちが本当の「幸せ」「ポータラカ」とは何かを問い直す物語です。
✦ 心揺さぶる家族との向き合い方 ― 親子の確執、理解と許容、そして愛情の形が、切実に描かれます
✦ 奇想天外な世界観 ― 銀河鉄道のような幻想的な舞台設定で、壮大な旅が繰り広げられます
✦ 次々と現れる個性的なキャラたち ― 汽車で出会う者たちの背景ストーリーが、深い感動を呼びます
✦ 夢は何度も変わっていい ― 現代の若者たちへの静かなエール。諦めることと選び直すことの違いを感じさせます
作品解説:「理想郷」への旅が問いかけるもの
古い物語から現代への問い直し
ヒンドゥー教やチベット仏教では「補陀落山(ふだらくせん)」と呼ばれる観音菩薩が住む理想郷が信仰されてきました。古来、日本の一部では、この彼岸への「渡海」に生きたまま旅立つ修行者がいたとされています。
本作は、この古い伝説を、現代の若者たちの心の旅へと昇華させています。
舞台設定は近代的ですが、根底には普遍的な人間の問い――「苦しみから逃れる場所は本当に存在するのか」「人生で何かを失うことは、本当に終わりなのか」――が流れています。
「夢の正体」を問い直す
この作品で最も深く掘り下げられるのは、**「夢とは何か」**という問題です。
若い頃は、夢は固定的で絶対的なものに思えます。「カメラマンになる」「歌手になる」「俳優になる」――それらは人生における究極の目標のように感じられます。
しかし、人生は予測不可能です。環境は変わり、人間関係は移ろい、時には人生計画を揺るがす出来事が訪れます。
本作の中で、登場人物たちが遭遇するのは、正にこの問題です。「もし夢が叶わなかったら?」「もし夢を追い求めることが、大切な人を傷つけるとしたら?」
このジレンマの中で、彼らが見つけるのは、意外な答えです。
「代償」の意味
この物語では、理想郷への汽車に乗るために、乗客は「自分の夢を代償に切符を買う」ことになります。
表面的には、これは失うことの象徴です。しかし、物語が進むにつれて、この「代償」が実は、人生における本当の優先順位を見つめ直す行為であることが明らかになります。
重要なのは、何かを失うことではなく、その過程で**「本当に大切なものが何か」を知る**ことなのです。
親と子、そして人間関係
この作品は、同時に、親と子がいかにして理解し合うかという、極めて個人的でありながら、普遍的なテーマに深く関わっています。
人生における最初の「汽車への乗り方」は、親から与えられたものです。親は、自分たちが経験した人生に基づいて、子どもにある種の「人生路線」を指定しようとします。それは愛情ゆえの行為ですが、同時に、子どもの自由を制限する行為でもあります。
登場人物たちが経験するのは、この葛藤です。
- 父親の期待と、自分の夢
- 親友との約束と、自分の人生
- 愛する者との関係と、自分の夢
どれを優先させるべきか。その選択肢の中で、彼らが見つけるのは、**「選ぶこと自体が大切であり、その過程の中にこそ、人生の豊かさがある」**ということです。
「汽車」という象徴
銀河鉄道をモチーフにした汽車は、単なる舞台装置ではなく、人生そのもののメタファーです。
- 乗客たち:様々な人生経験を持つ個別の人間
- 駅:人生の選択肢、岐路
- 切符:人生において払うべき代償と、それによって得られるもの
- 終着駅:究極の目的地か、それとも通過点か?
旅の中で、登場人物たちは様々な人に出会います。失った者、失わせた者、後悔する者、前に進もうとする者――その一人ひとりとの出会いが、主人公晶の人生観を少しずつ変えていきます。
現代社会への問いかけ
失われた30年と言われる現在、多くの若者が**「理想郷への逃げ」**に引き寄せられています。
それは、SNSでの完璧な自分像の構築、ゲーム内での別人格、あるいはより深刻には、現実からの究極の離脱への誘惑です。
本作が問いかけるのは、**「本当の理想郷はどこにあるのか」**という問題です。
理想郷は、物理的に移動することで到達できる場所ではなく、人間関係の中で、困難を乗り越えながら、新しい夢を見つけ直すプロセスの中に存在するのではないか――
この問い自体が、舞台を観る者に、深い思索をもたらします。
「変わる夢」という許容
この作品が示唆する最も重要なメッセージの一つは、**「夢は何度も変わってもいい」**ということです。
子どもの頃の夢が、人生を通じて唯一の正解ではありません。人間は経験を通じて成長し、価値観は変わり、新しい喜びを発見します。
その過程で、元々の夢が形を変えたり、別の夢が生まれたりすることは、人生の豊かさを示しています。
むしろ問題なのは、夢を見ることを諦めることや、過去の夢にしがみつき、現在の自分を見失うことなのです。
観劇後に、あなた自身に問いかけてください
この舞台を観終わった時、一つの問いが、あなたの心に残るでしょう。
「あなたにとって、ポータラカとは何ですか?」
それは、物理的な場所ではなく、心理的な状態かもしれません。
- 誰かと一緒にいることの中にあるポータラカ
- 夢を追い求める過程そのものの中にあるポータラカ
- 失ったものを受け入れ、前に進もうとする勇気の中にあるポータラカ
- 日常の何気ない瞬間を大切にすることの中にあるポータラカ
- 親や友人と真摯に向き合い、理解し合おうとする時間の中にあるポータラカ
人によって、その答えは異なるでしょう。
そして、その答えは、人生という長い旅の中で、何度も変わるかもしれません。
最後に
『終着のポータラカ』は、表面的には「少年が理想郷を求める冒険ファンタジー」に見えますが、深い層では、**「現代を生きる私たちが、いかにして失望と希望の狭間で、自分たちの人生を構築していくか」**という問題に真摯に向き合った作品です。
家族、友情、夢、愛情、喪失、再生――人生の最も根本的なテーマが、丁寧に編み込まれています。
この舞台を観た時、観客は自分自身の人生を問い直すことになるでしょう。
あなたにとって、ポータラカはどこにあるのか?
その問いを胸に、あなたの人生という汽車の旅は、今日も続いていくのです。
公演詳細
日時 12月28日(日)
11時/16時
場所 尼崎ピッコロシアター中ホール
料金 2000円
予約フォーム
日時 1月4日(日)
18時
場所 高槻城公園芸術文化劇場トリシマホール
料金 1階S席(前方) :¥990(税込) 1階A席(後方) :¥550(税込)
予約フォーム




