「何を演じていいかわからない」が消える、たった1つの技術

劇団天文座
作成日:
稽古場で立ち尽くす。頭が真っ白になる。監督の「もっと悲しそうに」という言葉が、まるで外国語のように遠く聞こえる——。
もしあなたが演技の現場でこんな経験をしたことがあるなら、それは決してあなたの才能がないからではありません。「演技の地図」の読み方を、まだ誰も教えてくれなかっただけなのです。
今回お伝えするのは、プロの俳優が密かに使っている「脚本分析」のメソッド。この技術を手に入れれば、あなたの演技から「迷い」が消え、自信と自由が手に入ります。



なぜ「感情を演じる」と、演技が薄っぺらくなるのか?
「このシーン、悲しい気持ちで演じよう」
 「ここは怒りを爆発させるところだ」
こんな風に考えていませんか? 実は、これこそが演技を硬くする最大の罠です。
感情は「結果」であって「目的」ではない
ここで質問です。
  • 「家族が亡くなったら、あなたは悲しいですか?」
  • 「宝くじで1億円当たったら、嬉しいですか?」
多くの人は「YES」と答えるでしょう。でも、本当にそうでしょうか?
もし虐待してくる親だったら? 亡くなって「ホッとする」かもしれません。
もし自力で成功したい経営者だったら? 運で手に入れた1億円は「むなしい」と感じるかもしれません。
**感情とは、ある出来事(事実)に対して、その人の価値観を通した結果として現れる「反応」**にすぎないのです。
最初から「ここは悲しいシーン」と決めつけると、演技は表面的になります。大切なのは「悲しい」という感情そのものではなく、「何が起きたから(事実)、どう反応したのか(感情)」というプロセスなのです。



プロがやっている「脚本分析」の極意:形容詞を捨てよ
では、脚本を読むときに何を探せばいいのでしょうか?
答えは、**「客観的な事実」**です。
主観(形容詞)vs 事実(動詞・名詞)
例えば、相手役との関係性を「仲が良い」と分析したとします。でも、ちょっと待ってください。「仲が良い」って、具体的にどういう状態ですか?
❌ 主観(NG)✅ 事実(OK)仲が良い | 毎朝手を繋いで登校する
機嫌が悪い | いつもより準備に10分多く時間がかかった
怒っている | 机を叩いた
「機嫌が悪い」と決める前に、「机を叩いた」という事実だけを見ましょう。
もしかしたら、それは怒りではなく、テレビを見て笑いをこらえているのかもしれません。あるいは、緊張をほぐすための癖かもしれません。
事実を具体的に把握することで、演技の選択肢は無限に広がります。



台本に書かれていない「事実」が、演技に魔法をかける
脚本分析の本当の面白さは、「台本に書かれていない事実」を想像力で埋めることにあります。
実例:「波の音がいつもと違うね」の裏側
ある朝、海辺を歩くシーン。あなたのセリフは、たった一言。
「波の音が、いつもと違うね」
このセリフの裏に、どんな「事実」を設定するかで、演技は劇的に変わります。
【設定A】昨日、大地震があった
→ 「波の音が違う」というセリフは、恐怖・不安・警戒を帯びます。
→ 声のトーンは低く、視線は海をじっと見つめます。
【設定B】相手役の余命があと3ヶ月
→ 些細な変化にも敏感になり、愛おしさ・切なさ・一瞬一瞬を刻む気持ちが生まれます。
→ 声は優しく、相手の表情を伺うように見ます。
【設定C】相手が浮気をしているかもしれない
→ 「いつもと違う」という言葉に、疑念・探り・試しのニュアンスが乗ります。
→ 視線は海ではなく、相手の反応を観察します。
驚くべきことに、この「事実」は観客に説明する必要がありません。あなたの中に強力な事実があれば、自然と感情が動き、セリフの響きが変わるのです。



「アクショニング」で演技を動詞に変換する
事実を設定して感情が動いたら、次は**「アクショニング」**です。これは、セリフを「動詞(行動)」に変換する技術です。
ルール:1つの思考=1つの息=1つのアクション
例えば、「おはよう。早いね」というセリフを2つのビート(思考の単位)に分けます。
パターンA(地震後の設定)
  • 「おはよう」 → 励ます
  • 「早いね」 → 安心させる
  • パターンB(余命3ヶ月の設定)
  • 「おはよう」 → 愛しむ
  • 「早いね」 → 気遣う
  • パターンC(浮気の疑いの設定)
  • 「おはよう」 → 探る
  • 「早いね」 → 試す
  • 事実(設定)が変われば → 感情が変わり → アクション(演技)が変わります。
    「何をしていいかわからない」という悩みは、このアクションが決まっていないから起こります。アクションが決まれば、俳優は「相手を励ます」「相手を試す」という明確な目的に集中できるようになるのです。



    ヘミングウェイの氷山モデル:演技の90%は水面下にある
    演技に深みを与えるもの、それは**「葛藤」**です。
    作家ヘミングウェイが提唱した「氷山モデル」をご存知でしょうか?
    水面に見えている氷山(=セリフ)は全体のたったの10%。残りの90%は水面下(=隠された意図・事実)にある。
    実践例:余命わずかな相手へのセリフ
    • 90%の事実(心の中):「病院に行ってほしい。このままじゃ危ない」(警告したい)
    • 10%のセリフ(表面):「最近、顔色いいね」(励ます)
    この**「中身(事実)と行動(セリフ)のズレ」**こそが、人間らしいリアリティを生み出します。
    私たちは日常でも、本音と建前を使い分けています。心で思っていることと、口に出す言葉は違う。この矛盾こそが、人間の真実なのです。
    事実という土台が強固であればあるほど、表面の演技に深みが出ます。観客は、あなたが何も言わなくても、その「ズレ」を感じ取り、心を動かされるのです。



    まとめ:演技は「ニンテンドースイッチ」、脚本は「ゲームソフト」
    最後に、演技というものを一つの例え話で締めくくりましょう。
    演劇とは「ニンテンドースイッチ(ゲーム機)」のようなもの。そして、脚本とは「ゲームソフト」です。
    マリオカートのソフトを入れているのに、スマブラの操作方法で遊ぼうとしても、上手くいきませんよね?
    脚本(ソフト)が変われば、遊び方(演技のアプローチ)も変わります。
    でも、どんなソフトであっても、コントローラーを握って操作するのはあなた自身です。
    • 「事実」という攻略本を読み解き、
    • 「アクション」というボタンを正確に入力していく。
    そうすれば、「何をしたらいいかわからない」という不安は消え、ゲームをクリアするまでの過程そのものを楽しめるようになるはずです。



    今日からできる実践ステップ
  • 台本を読み直し、形容詞に線を引く(「悲しい」「嬉しい」など)
  • それを「事実」に置き換える(「手紙を破いた」「5秒間沈黙した」など)
  • 台本に書かれていない「事実」を3つ想像する(相手の過去、今朝の出来事など)
  • 各セリフに「動詞(アクション)」をつける(励ます、試す、逃げる、など)
  • 稽古場で実験する(同じセリフを、違う事実で何度も試してみる)



  • さあ、あなたも台本という地図の中に、自分だけの「事実」を見つけに行きませんか?
    演技は、才能ではなく技術です。そして技術は、正しい方法を知れば、誰でも手に入れることができるのです。
    舞台の上で、もう迷わない。あなたの演技が、今日から変わります。